Art教育の意義


最近、アート教育の重要性を目にする機会が多いですね。

キッズアイランドのアートは季節感を重視していて、例えば今だと公園から集めてきた題材でモノを作ったりしています。

すでに、2,3歳にして、アートへの取り組み姿勢が違っていたりして、個性というか、中からあふれてくるものを大切にしたいなと感じさせてくれる分野でもあります。

(2歳児、テーマ:フード@キッズアイランド)

 

2019年4月開校の全日制のHILLOCK Bilingual Kinder Schoolでは、以下のような先進の学びに広く触れていきたいと考えています。

主な分野としては、Nature(自然とのふれあい)、Art(アート、表現)、STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)、Entrepreneurship(起業家精神)。

この4つの中で、Artを除いてはなんとなく勘所のようなものがあります。

Natureは登山するし、STEMはさびついているけど元工学部wですし、Entreは元金融マンで起業経験もあるしなど

 

Artの重要性を理屈で知りたい!

だけど、私は「Artに苦手意識」を持っています。

あこがれはあるんです。できる人、うらやましいw 自由で豊かな感じがする。

特にスクールを始めてからは、イベント用や季節のデコレーションとかをチャチャって作れる人がかっこ良い。

 

個人的な感情はさておき、スクールでやるということは、子どもの時間を使うということです。

中には、アートが嫌いな子どももいるかもしれません。けっこう重いです。

全日制キンダーでは、プリスクールの時より多くの時間を使いますので、なぜスクールでやるかの意義を「理屈で理解しておきたい」と思いました。

 

それで、自分なりに本を読んでみました。

 

「ビジネス系のアート大事だよ本」では、ジョブスもカリグラフィやっていたし、誰々も…などという実例から、本来ビジネスとの親和性が高い、とか、

Scientific approachではもはや差がつかないから、アートセンスで乗り越えるんだよとか、書いてあります。

確かにそうなのでしょう、でも、なんかあまりに実利的で、小さい子どもの学びに取り入れる理由にならない気がしました。

 

逆に、「アート教育系の方の本」からは、ご自分が好きだけに「こんなに素晴らしいのだから、やるのは当然でしょ」と迷いがなさすぎて…

 

有賀三夏さん

で、色々と読み進めた結果、東北芸術工科大学の有賀三夏さんの本に出合いました。

 

 

美大出身で中学生の臨時教員をされていた時、その効果を感じる一方で、美術授業の必要性を十分に説明しきれなかったくやしさ。

その解を探しに米国でアートセラピーNo.1のLesley大学院で学び、さらにガードナー博士提唱の多重知能理論に出会い深掘りし、

そして今、大学生を前に理論と実践の両面をされていること、などを知り、ぜひお話を!との一心で山形のラボまで押しかけました。

 

アートとは「人間が作り出す行為」

アートが苦手な私の「アートがなぜ重要なのかを理屈で教えてください」という素人質問に真摯にお答えいただきました。

 

まず、前提として

アートの定義として、私は「人間が作り出す行為」としています。

ゼロからイチにする行為。

この定義だと、ご飯をつくる、掃除をする、洋服を作る、家庭菜園もそう。

ブリコラージュのように、有り合わせのモノで何かを作ってしまうとか、そういうのもアートです。

未来のことを考えて、試して、工夫して、このように「手を動かして作る経験」自体がとても大切なのです。

アートの2つの意義

有賀さんがおっしゃったことをかなりそぎ落として私なりにまとめますと、以下に集約されます(と思います。ちなみに文責は全て私に帰します)

1.アートは、人間がもつ様々な知能に対して統合的に働きかける

2.アートには自己治癒力がある

(だから)アートは、創造的でクオリティの高い人生を送るのにとても重要なことである

私にとって、この話はとても説得力がありました。

環境変化が激しい時代では、むしろ流行りの知識より、長い目で見た「人としての基礎力」が大切だと考えているからです。

変化に臆せず楽しむ力、くじけそうな時に立ち上がるしぶとさ、分からない時に色々な方法で試す意欲、などなど。

 

上記の2点について、少し詳しく説明します。

その1:様々な知能に統合的に働きかける

まず一つめの「アートは、人間の様々な知能に対して統合的に働きかける」という点ですが、

有賀さん自身は直接的には「作り出す行為は、8領域に働きかける」とおっしゃっていました。

 

この中の「8領域」という言葉は、ハワード・ガードナー教授(ハーバード大学)が提唱している多重知能理論(Multiple Intelligences:MI理論)によるものです。

人間の知能を(IQなどだけではなく)広く捉えて分類した理論で、ガードナー教授によれば、以下の8つに分類される。

①言語的知能
②論理・数学的知能
③空間的知能
④音楽的知能
⑤身体運動的知能
⑥対人的知能
⑦内省的知能
⑧博物的知能

例えば、身体運動的知能って面白いですよね。私も、頭の良さにも色々あって、身体をイメージ通りに動かせるのは「運動面での頭(脳)がいいから」と昔から思っていたので、感覚に合います。

どういう分類がいいのか、本当に8つかどうか、互いに独立しているのか関連しているのか、などの議論は色々あるでしょうが、広く漏れなく、そして納得感のある分類になっていて、とても意義深い考え方です。

これらの8つの領域にある様々な能力から「自分の得意を見つけ」たり、これらの「複数の知能を組合せて目的に近づいていきましょう」ということにつながってきます。

 

有賀さん曰く「アートという行為はこの8つの能力に働きかけるんですよ」ということです。

 

MI理論を知ってから有賀さんに会うまでの間、この8領域知能について、実は全く同じロジックを「起業」でイメージしていました。

起業は、様々な能力の総合力で勝負するから、起業(=困った人に自分なりのプレゼントをする)を授業に取り入れると、ハート面に加えて総合的な能力開発面で効果的なはず、といったロジックです。

 

また、「手を動かしながら学ぶ」というコンセプトは、STEM教育の専門家である中村一彰さんがよく引用している「コンストラクショニズム」に沿ったものでもあります。

 

思いがけず「STEM・アート・起業が結びついて」きてかなり嬉しかったですし、すっと一本の筋が通った感じで肚落ちしました。

 

その2:自己治癒力

ここは、まさに有賀さんの専門です。

「アートセラピー」という歴史を持つ領域が存在して、実際の療養やもっと軽い場面でも、治療や治癒に活用されています。

自己治癒という観点ですと、創る行為によって、感情が解放される、自分ってイケてる感じがする(自己肯定感の一種)などはよく理解できます。

 

これもHILLOCKにおいてとても大切なことにリンクしてくるのです。

HILLOCKでは、目指す子ども像は示していません(大人が示す良い子像に寄せるような教育のあり方に賛成できないので)

それでも、以下の3つは「もってもらいたいもの」と考えています。いずれも「非認知能力」に関係するもので、私はどんな状況でも人生を豊かに生きていくのに大切な要素だと思っています。

  • Confidence(自分らしさを大切に)
  • Collaboration(人と協働することは素敵)
  • Creativity(とにかくやってみようと手を動かす)

 

特に、Confidenceに関わってくるのですが、自己肯定感と言っても、人間っていっつも絶好調というわけではなく、くじけたりすることはよくあります。

無理矢理のポジティブ思考でフタをするのではなく、かと言って、くじけたままでなく、Resilience的な感じでジワリと立ち直ることが大切だと思います。

アートには自己治癒力があるというのは、そういう意味でHILLOCKに直接的で深い部分につながります。

 

加えて、Collaboration(共同制作など)、Creativityなど、お話を伺う前の想定以上に直接的に関連してくることを認識しました。

 

カリキュラム化

子どもたち向けのカリキュラムを開発する際のアイディアもたくさんいただきました。

  • 作り手の意図がしっかりしていること
  • あまりガチガチにならずに、作る経験を積み重ねていくこと
  • 素材などを広く捉えるとよい
    • モノとは何か。生活の中のものを組み合わせていくとか。
    • モノの重量、色、形、質感、などに触れていく。水なんかだととてもクリエイティブ。
    • 地面を、木を、など自然とも組み合わせていく
  • 様々なツールにも慣れていくとよい
  • 良いものとは、子どもにとって手ごたえがあるもの

今までは「アートのDescription」を見ても、ふーんという感じだったのですが、理屈で少し肚落ちすると、プランの意図・思いが自由に見えて来る気がしています。

不思議と言うか、私のいい加減なところというか(笑)

その先

有賀さんは「芸術思考」という分野を深掘りされようとしています。

私には難しそうだけど、もっと知りたいなと思っています。

 

HILLOCKで大切にしていきたい、STEM、自然、Entrepreneurなどとの関連性や親和性も強く感じました。

3つのC(Confidence、Collaboration、Creativity)にも深くかかわってきそうです。

当初の目的だった「Artをやっていく意義を理屈で理解したい」が達成できた気がしています。

(実際はもっと深く、もっと具体的でしょうが、スタートラインに立てたと思います)

 

私のアート苦手意識のきっかけは、小1の時の担任の「絵は下手ね」という言葉かなと思います。

そこからうまくやろうとしたけど、できず。もがくほど嫌いになっていった。

そのうち、向いてないのが早くわかってよかった、とか無理矢理正当化(笑)「酸っぱいブドウ」ってやつです。

小さい頃のトラウマって深いなと思います。

 

そういうこともあって、なにより関わる子どもの芽を摘まないようにしたい。

一方で、好きでもない子に押しつけないようにしたい。

これは、アウトドア、STEMなど他分野でも同じで、幅広く「世の中にはこんなものがあるんだぜ」って感じで紹介はするけど、そこから先は人それぞれの興味に沿った形で見守って、評価はしない、そして、大人も共に育っていけるような環境でありたいと改めて思いました。

 

私自身今回分かったのは、苦手意識から自分の視野が狭くなっていたかもしれないということです。

もっと広く自由に定義しなおしちゃっていいのかなと解放された気がしました。

もっと知ってみよう、場合によっては「ちょっとアート的なことやってみようかな」と思えたのは個人的な収穫であり、成長かなと思います!

 

有賀さん、ありがとうございました。直接お返しできないので、子どもたちに返しますね。

 

<堺谷武志の略歴>

大阪出身、京都大学工学部、南カリフォルニア大学MBA、三菱UFJ銀行を経て、キッズアイランド設立。保育士。一女の父。週末登山家。

現在「都会の子どもに『ソダチバ』を!」プロジェクト推進中
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