書感:文部省の研究


サブタイトルにある通り、時代により変遷する「理想の日本人像」を切り口として文部省150年の歴史を振り返った作品です。

「日本の教育史」を知るのにいいだろうと思って読みましたが、とても読みやすく面白いです。

学者の本ほどガチガチ感がなく読みやすいです。やや保守系よりの意見かなと思います。

頭の片隅に「理想の日本人」を維持しながら、150年の流れを通し見ることができたので、論旨がクリアに感じたのかもしれません。

(帯は時事ネタに絡めていますが、正直あまり関係ないと思います(笑))

ポイント

・本書の切り口:教育の中心的課題は「理想の日本人像」の探求だった。

・教育制度や施策はこの像によって整理されるが、時々の情勢(国際情勢と国内情勢)によって移り変わってきた。

・理想像を作る中心的存在は文部省であったが、教育は国の根幹にかかわる重要事項であるだけに文部省は逆に主導的地位を築けなかった

 

・「列強の脅威」に対抗する必要のあった明治初の「学制発布(1872年)」の理想像は、意外にも(?)「(西洋的な)独立独歩の個人」

・但し、すぐに「国に尽くす臣民」的なものに揺り戻しあり(あまり自立されると、政府にとって不都合なことも多し)。

・「教育勅語」や「国定教科書」も当初は意外に自由で解釈も幅があったが、教育も急激に全体主義に向かっていった。

・戦後、理想像は「平和の担い手」→「経済の担い手」などの変遷を遂げ、現在は「グローバリズム」と「ナショナリズム」の組合せ

感想

・教育史ながら、政治史、思想史、世界史的な読み方もできる幅がある。歴史好きには面白く、教育関係者には基点となるアイディアが整理されています。

・この150年間、底流として「国際競争力(軍事・経済)」と「共産主義」への対応に追われたことが、教育という切り口からうまくあぶり出されていたと思います。

このうち、共産主義の恐怖はほぼほぼクリアできたでしょう。

・著者自身が「理想の日本人像」は不完全な虚構と言っているが、仮にあったとしたら、私などは「お役に立てずにすみません」という感じです。

また、イチ個人としては「その理想って誰が作るの?あんた誰?そんな偉いんですか?」と憎まれ口の一つもたたきたくなるのは、私がひねくれているからでしょう(笑)

・しかし、政策提言者にはたたき台として必要でしょう。教育って誰でも語れてイメージだけで色々言う人もいるでしょうから、取りまとめるのは大変そうですね。

・具体論が大切!なので(「教育勅語をもう一度」vs「君が代反対」のような)保革対立を越えて、将来のためにパーツパーツを組み合わせて丁寧に作っていきませんか?という著者の提言は妥当だと思います。

・ただ、その過程で、基本的には、国というものは縛りたがるものだし、ウソをつくこともある、と考えて、何であれ個人の権利を抑制する方向に行くことに対しては、批判的に見た方がいい、と私は考えています。

・個人的には以下を気をつけたい。

「グローバリズム(普遍主義的なもの)は格差を是認するので社会が不安定になる」と(少なくとも政府には)考えられているということか。

(共産主義の脅威はクリアできたので少し緩めて考えてもよさそうだと思うが…)

ナショナリズムというのは、政府の都合(これを悪いとは言わない)が往々にしてあるものだな。まとめやすいし。

全体主義に向かう「空気」は一瞬にして作り上げられるものである。

今の情報流通のあり方(現状のネット上やマスコミ)を踏まえて、よく気をつけないと。

2つのバランスの中で、そろそろグローバリズム(「独立独歩の個人」)にもう少し重点を移しても良い頃ではないか?

独立独歩だとまとまりがなくなるという発想自体が情けない。自立しているからこそ、真の愛国心ではなかろうか。

この環境下、一人ひとりの国際競争力をつけていくべきでしょう。

しかし、教育というのは、本当に政治的ですね。

どこの国でもそうなんでしょうか?

 

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