書感:ブレンディッド・ラーニング~訳者と私のディスカッションもあり
今回、書感でご紹介する「ブレンディッド・ラーニング」は、アメリカで実践され始めている手法です。あるいは、思想といった方がいいかもしれません。
個別化を進める
1.「個別カリキュラム」×「生徒主導」×「達成度基準」を軸として、一人ひとりの学びを効率的にサポートする。
2.オンラインを活用して個別化を進めるとともに、共同のプロジェクト活動などを行う。
3.学校のハード・ソフト、教師の役割なども、個別の学びを軸として変わる
欧州でも「学びの個別化」は進んでいます。当然アジアの伸びている国でも模倣されます。
つまり、世界中の先進国の学びがその方向に向かっていると言えます。
日本でも大枠では同じ方向を向いているようです(本当?)
が、周回遅れ(もっと?)の感は否めません。
教育に関わる方は、本書とそれに先行する「教育×破壊的イノベーション~教育現場を抜本的に変革する(クリステンセン、2008年)」に目を通されることをお勧めします。
訳者の小松健司さんとのディスカッション。
とても光栄なことに、訳者の小松健司さんがキッズアイランドにご興味をお持ちいただき、訪問してくださいました(ちゃっかり、少しキッズアイランドの宣伝w)
これからの学びのあり方について、お話しを伺いました。
現在は「ブレンディッド・ラーニング」普及活動に専念されている小松さんですが、以前は塾を経営されていたとのこと。
「以前経営してた塾では、生徒が自分で計画を立てることを薦めていたのですが、これがなかなかできない。低学年から始めた子どもはできるのだけど、高学年から塾に来た子どもは、学習計画を先生に決めてもらいたがる」
「自分の学びは自分で計画を立てるのは、とても大切なことなのですが、生徒の親からも理解を得られにくいことが多かった。」
「親、教師、文科省は、古い時代の仕組みで優秀だった人だからか、頭では理解してくれても、実行段階になると先に進まない。これまでの優秀さが、今後もそうなのかは疑問。これからの時代に即した教育のシステムを考えていかないといけない」
「自分の考え方・やり方をまさにアメリカで実践している学校があることを知り、著者のマイケル・ホーンと接点を持った。著作を出すというので翻訳を申し出た。」
「ブレンディッド・ラーニングでは、空手や将棋のように無学年制で、自分に合った形で学習を進めることが可能となる。効率的に学習して、余った時間は共同学習や実験など深堀りする学びに使える」
「今の先進的な取り組みをしている小学校もあるし、オンライン教育でしっかりとした事業者もいる。ただ、意識の高い限られたメンバーでやっていて、そこから先、広がっていっていない。」
「ブレンディッド・ラーニングは、公教育、学童、補習、塾、地域の公民館などあらゆる形態で有効だと考えていて、もっと広めていくのが自分の使命だと思っている」
「オンライン事業者について、評価基準を決めてリストを作成しているところ。導入したい教育機関からの相談があれば、飛んでいきます」
小松さんは、気さくで温厚な話し方をされますが、中に熱いものをもっていらっしゃる方でした。ありがとうございました。
PS:ここから先は、少し私の余談です(とても、長いw)
先日、期末試験前だということで、
高校生の娘に「数学B」の「位置ベクトル」を教える機会がありました。
お小遣いを渡す時くらいしか、娘から期待される瞬間はないので、頼まれれば私は何でもよろこんでやります。一応、理系ですから、数学や理科ならオッケー!(のはず)
位置ベクトルへの恨み、炸裂!
それにしても「位置ベクトルってまた渋いところ突いてくるなぁ(苦笑)」と思いつつ、
サビた頭の目を覚ますために、まずは教科書を勉強。
「ふーん、こんなんやったっけなあ。そういえば、大学(化学工学学科)で位置ベクトルって使ったっけ?
あっ、そっか。大学では何にも勉強しなかったから、使うわけないよな、ハハハ」
とか言いながら、少しずつ勉強するのが面倒くさくなる私。
そうすると
「こんなの、よく文句言わんとやってたな(当時さんざん文句言っていましたが)」
とか
「そもそも、これは何のために勉強するんじゃ」
と、勉強がいやになってきた時に限って、本質的な質問が頭に浮かぶのは私だけではないでしょう(笑)
「いやいや、黙って解き方を覚えるのが、高校の勉強の基本や。そもそも、娘にこれは何のためにやるのか言っても意味がない。期末試験はすぐそこだ。本質的で深い疑問は破滅を招く」と思い直します。
でも、若さがなくなるというのは悲しいもので、この根気がなくなります。
教科書を見たけど、目的が書かれていない。
「目的のない学習って、いったいそれってなんなんや~!」と叫ぶ私。
「いったい世の中のどこに、目的が明確じゃない活動ってあるんじゃ~!」
よく考えれば、足し算から高校まで目的が教えられないまま、勉強が進んできました。
どうしても我慢できなくなって、ウェブで検索しました。
解き方はさんざん出てきますが、「なぜ学ぶのか」「位置ベクトルは何のために必要なのか」が出てきません。
やっと出てきました。島根大学の物理関係の数学についての文章の中です。
(出典:http://www.phys.shimane-u.ac.jp/mochizuki_lab/PM13.pdf)
以下、抜粋。
『物理学において、ベクトルの使用は何時ごろ始まったのであろうか?
ベクトルの考え方 は、ニュートンの著作「プリンキピア」に早くも現れている。この歴史的な書には、矢印によって幾何学的に表されたベクトルを含む図が、随所に描かれている。
ニュートンが力学の研究でベクトルを必要としたのは、3次元空間における物体の位置を指定するためであった。ベクトルを学ぶ出発点として、この必然性を理解しなければならない。まず、2次元の世界で、我々はどのように位置を指定すべきかを考えてみよう。』
(下線は筆者が引いたもの)
目的はなんと「三次元空間の物体の位置指定」のためです。
その練習のために二次元の位置ベクトルをここでさせていると考えられます。
私の娘は、文系志望です。これ、本当に必要ですかぁ?
受験では必要。横並びで見る必要があるから。それって大人の都合じゃないですか?
実はもっと問題に思っているのは、高校数学における「統計」の位置づけの低さです。
文系卒の人間が、実社会で使う数学と言えば、何といっても統計だと思います。
日本人は、統計に弱すぎる。
これを、それこそPCを使って処理する演算をさせるとか、統計を使った説得の仕方、統計にだまされない知恵、などを科目横断でやった方がよっぽど実用的です。
これだけで、将来のホワイトカラーの生産性は格段に上がります。
他にも問題点があります。
高校数学は「生類憐みの令」の時代の数学
「プリンキピア」と言えば、17世紀後半(1687年)の書物です。
なんと330年前。江戸時代でも前半、徳川綱吉の生類憐みの令の時代です(笑)
基礎として必要ですが、決まりきった範囲の違う角度からの問題をこれでもかというくらい解いて、精度を上げさせる。
ただ、いくら学びたいと言っても、範囲の先にあるものには進めないし、教えてくれない。
最先端の科学や数学、より現実的に量子力学をやりたい人、人工知能をやりたい人が、学ぶべき数学ってどんなものなのでしょう。
そして、その数学は、この10年の間でも、どんどん進歩し、専門化が進んでいるのではないでしょうか。
できる人、やりたい人には、ざっくりでもいいので、もっと先に行かせてあげる方がいいのではありませんか?
「あなたができるのはわかるけど、高校ではここまでしか教えません。あとは、大学入ってから(あるいは自力で)330年分追いつけるように苦労してください。」
このやり方で本当に間に合いますか?これって、無責任すぎませんか?
高校数学の非合理さ
まとめると以下のようになります。かなり雑な表現で申しわけないのですが…
「文系にとって、必要なものは不十分なのに、不必要なものをやらせる」
→現実に必要なものに力を入れるように変えられませんか?
「理系にとって、生徒が先に進みたくても学ぶ機会を学校が与えない」
→これって、権利侵害ではありませんか?
非合理的で、理不尽ですらあると思います。高校では実学にリンクするものをもっと取り入れるべきです。
数学って、そもそも合理性や論理的思考を育むものであるはずなのに…
日本の学校制度からABC予想の望月教授は生まれえたか?
ABC予想の証明者の望月新一さん、19才でプリンストンに入り、23才でPh.D(博士号)取ったそうです。
日本人の快挙と喜んでいますが、この方、日本の制度からは生れなかったと思います。
アメリカで育ててもらったのです。すごい皮肉です。
飛び級が文化的に難しいのは理解できなくもありません。学科だけでなく、人との接点から学ぶものは多いでしょう。
それでも、学年制度の中でもできるような工夫を合理的に考えるべきだと思います。
これは大人の責任だと思うのですが、いかがでしょうか?
といったような問題が「ブレンディッド・ラーニング」の思想や手法を取り入れると、解決されるのではないでしょうか(→これがオチです)
ちなみに、以上のような私の心の動きは娘にはほとんど伝えず、淡々と「位置ベクトル」について教えました。
私も「か弱き大人の代弁者なのか (by 尾崎豊)
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